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広島高等裁判所岡山支部 昭和24年(を)183号 判決 1949年11月16日

被告人

島村博光

主文

本件控訴を棄却する。

理由

前略

弁護人軸原憲一の控訴趣意第一点について。

本件訴因が住居侵入と窃盜の二個であることは、本件起訴状の記載により明瞭であるから、原審が右窃盜の外住居侵入の事実をもその審理の対象としたのは当然であつて、所論の原審が右住居侵入の事実を審理したことを以て、審理の請求を受けない事件を審理したとなす非難は失当である。しかし本件起訴状によれば、その罰條の記載は窃盜の單純一罪として刑法第二三五條を示すのみであるのに、原判決によれば、原審は本件訴因と同一の住居侵入と窃盜の二個の行爲を認定して、前者には同法第一三〇條、後者には同法第二三五條を適用し、両者を所謂索連犯と認めて同法第五四條第一項後段により重い窃盜罪の刑を以て処断している。然らば、原判決の右適條が起訴状載記の罰條に比照して、果して適法であるかどうかにつき、以て考察を試みる。裁判所が実体判決をするには起訴状に記載された訴因と罰條に拘束され、起訴状記載の訴因、罰條を適当でない考へるときは訴因、罰條の追加変更を命ずべきで、その手続をとることなく、起訴状に記載のない訴因、罰條を以て有罪とすることはできないのであるが、法令の適用は元來裁判所の職権によるべきものであるから、罰條の拘束は絶対的のものでなく、裁判所は、被告人の防衞に実質的な不利益を生ずるおそれのないかぎり、起訴状に記載されない罰條を適用することは許されるものと解する。しかして記録に徴すれば、本件起訴状記載の訴因と罰條が前示のとおりであることは本件起訴状の記載自体により明白であり又本件起訴状記載の住居侵入の訴因は終始原審審理の対象となつているので、被告人及び原審弁護人には原審においてこの点につき被告人防衞のため十分機会が與へられており、且つ訴因が事件と同じ住居侵入と窃盜の二個であつても罰條を住居侵入の一罪として刑法第一三〇條のみ示されている場合は格別、本件においては、原判決は起訴状に示されている住居侵入と窃盜の二訴因を認定したが、右両行爲を索連犯と認めて同法第五四條第一項後段により結局起訴状記載の同法第二三五條所定の刑を以て処断しているのであるから、訴因中窃盜のみを肯認してこれに起訴状に記載されてある同法「第二三五條を適用して窃盜の單純一罪として処断した場合と同一に帰し、処断刑適用の点についても被告人に不利益を被らしめた結果とはならぬ。從つて、原審が本件訴因である住居侵入と窃盜の二個の行爲を認定して、起訴状記載の刑法第二三五條の窃盜罪の罰條の外起訴状に記載のない同法第一三〇條の住居侵入罪の罰條を適用しても、以上説示のように、被告人の防衞に実質的な不利益を生ずるおそれがあるとは思料されないから、原審が右の刑法第一三〇條を適用したのは正当な職権の行使というべきで、原判決に所論の法令違背があるとなすと得ない。故に、論旨はその理がない。(もつとも、新刑事訴訟法が、当事者の適切な攻撃防禦の方法を保障するため、同法第二五六條によつて起訴状の訴因と罰條はこれを嚴密に記載することを要求し、且つ同法第三一二條に訴因、罰條の追加変更に関る規定を設けた趣旨に鑑み、原審はその審理の過程においてよろしく釈明権を行使して本件起訴状記載の訴因と罰條の関係を明確にすべきであつたと思料するが、原審公判調書に関するも、原審がこの挙に出た形跡がないのを遺憾とする。)

後略

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